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クリスマス短編
 ある時僕は、人生には愛が必要だと学ぶ。
 理屈ではない。

 来るべきものは、放っておいたってやって来る。それは真理だ。ただし、呼びつけもしないのにやって来るのは、ろくでもないものに決まっている。唐突ながら、うちの母親の話をしてみよう。あるとき不意にやってきて、以来、父親の背中に棲み着いている。故に、母親はろくでもない。彼女の方にも言い分があり、僕はある日突然、全く何の前兆もなく、彼女の股からひょっこり顔を覗かせた。故に僕もろくでもない。母親と目が合ったところで、一つ舌打ちをしたのだという。僕はどうにか胎の中へ引っ込み直そうとしたものらしいが、母親の悲鳴を聞いて駆けつけた父親に引っこ抜かれた。そこから先は修羅場となり、僕の記憶は定かではない。
 父親は、当然僕に指をつきつけ、こう問いつめた。
「俺の女の中で何をしていた」
 僕は煤にまみれたままで、火をつけられたように泣いていた。年齢分を鑑みて、もう少しおだやかな問いかけの方法があったと思う。人生の冒頭部を、父親から間男と決めつけられて始めなければならないなんて。勿論僕にも反論はあり、僕を孕ませたのは、あんたであって、僕ではない。そんなことを可能とするには、何かとんでもなくアクロバティックな仕業が必要そうだ。とても単純な推理と僕には思える。
「ちょっと待って」
 そう言い出した母親が注目したのが、自分自身の保有権に関する議論であったことを、僕は意外と思わない。あまりに当然の権利申し立てというものだ。私がいつ何時、あなたの女ということになったのか。お前はすっこんでろ。父親はそう宣言するべきだったと思う。この時点で父親の対峙するべき敵は、現場を押さえられた上、なす術もなく裸ん坊で泣き叫んでいる僕であり、敵に背中を見せるのは、全くのところ推奨されない。ポリティカリーなコレクトネスはお呼びではない。
「いや、まあ、まて、お前」
 お前、の一言が更に事態を紛糾させていくのを、僕は耳殻の遠くで聞いていた。

 父親が僕を、自分の子供だと納得するには、そこから長い長い時間がかかった。もしかして、未だにわかっていない可能性だってある。結局のところ、良く理解ができなかったものらしい。深夜に起き出し、父の書斎の前を通るたび、友人たちに電話をかける父親の声が耳に入った。
「それは当然、わかっている」
 父親は力強く断言する。
「ああ、無論。勿論。当然。間違いない。違う。断然、責任逃れなどではない」
 当時の父親の友人たちのことを考えると、同情の念を禁じ得ない。いい歳をした男から、間男に関する相談をされ、話をきくとどうやらそれは、自分の息子のことであるらしい。お前の子供だろうと、誰もが言う。無論、理屈の上ではそうなる、と父親は言う。感情の面でも認めると続ける。それじゃあ、一体何が問題なのか。ここらで友人たちは匙を投げる。
「だっておかしいじゃないか」
 と受話器を置きながら父親は言う。
 残念ながら、僕も全く同じ意見だ。

 僕を自分の息子だと認め、それでも残る違和感に一歩も譲らなかった父を次に襲った問題は、一体僕は誰なのか、ということだった。より正確に言うならば、僕は一体何なのかということだ。そこのところ、僕も大いに興味を持ったので、父親の腹の上であやされながら、涎をだあだあ浴びせかけた。
 父の考えるところによると、僕は、息子みたいなもの、ということになる。自然の条理に従って産まれた上で、自然の摂理に逆らっている。すなわち、自然はろくでもない。それが父の辿り着いた結論だった。ろくでもない自然がよこした以上、こいつは真っ当な息子ではない。真っ当ではないが息子である。父親はそうして自分を納得させようとしていたものらしい。だいたい、股の間から逆さまに出てくるなんていうことが、非常識極まりないではないかと、父は僕を前に置いて説教した。
「いいか」
 と父は、お襁褓姿で神妙にわだかまる僕に向かって言った。
「煙突を通り抜けるのに、頭から入り込むような間抜けを俺は息子に持った覚えはない。次はもっと上手くやるんだな」
 結局つまりはそういうことだ。
 僕はクリスマスイブの夜に産まれた。多分、この一件の真犯人は、サンタクロース。それは当然、僕のことだが。
 父親はただ、可哀い娘が欲しかったのに。
| enjoetoh | 00:00 | comments(2) | - | pookmark |
Comment
きゃ!?
人界のけーさん逢わないけど...。
Thanks & メリクリ★
Posted by: |at: 2008/12/11 10:28 PM
すばらしいクリスマス・プレゼントだと思います。
すべてのEnJoe好きに対する。
Posted by: ゲブスタッター |at: 2008/12/11 5:37 PM








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